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学習プログラム 取材記録 取材日:2010/11/06
プログラム名 402.自然観察指導員養成講座
プログラム登録者 A1002. こんぜ里山楽校 講座部
目的 自然観察や里山活動で自然の不思議やすばらしさ・奥深さを体感することで、自然が大好きな人、自然の魅力を伝えられる人を育成します。
 「こんぜ里山楽校 講座部」が連続で開講する年間22回の「自然観察指導員養成講座」の1回を取材しました。

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 11月上旬のよく晴れた日、講座の受講生約10名とスタッフが、JR大津京駅前に集合しました。オリエンテーションの後、車に乗り合わせて高島市朽木に向かいます。

 出発前のオリエンテーション

■□■朽木の自然と人との関わりを学ぶ
 今回は連続講座の15回目。「原生林の不思議と紅葉」がテーマです。
 講師は、こんぜ里山楽校主任講師の清水滋さんと、自然観察の指導に清水繁さん。同じ名前で同じ年代の二人のプロと頼もしい先輩スタッフたちに導かれて、湖西の自然のありようを学びます。最近、伐採の問題が持ち上がっているトチノキの大木の状況も知ることができると期待もしながら、出発しました。

 車に分乗して進みます

■□■錦秋の山を愛でる
 最初に向かったのは、朽木平良です。針畑川沿いに西へと進んで、車が止まったのは素晴らしい紅葉・黄葉の中でした。車から降りた受講生たちは、あたりを見回して歓声を上げています。
 近江寒霞渓の紅葉

 「ここは眺めが素晴らしいので、近江寒霞渓(かんかきょう)と呼ばれています」と清水滋さん。山のずっと上まで赤・橙・黄色が入り混じって、人の手の入らない広葉樹の森の美しさを感じることができます。こういう森は豊かなので、生きものがたくさんいるのだと説明がありました。また、この針畑川は北から南へ流れ安曇川と合流すること、その安曇川は蛇行が少なく真っ直ぐに南から北へ流れ琵琶湖へ注がれているという、ちょっと不思議な地形も教わりました。
 きれいで冷たそうな川の水

■□■生杉のブナ原生林でトレッキング
 再び車に乗り込み、さらに川をさかのぼって、朽木西部の生杉地区にあるブナ原生林の入り口に到着しました。近年この地域の紅葉が評判になってきたようで、周囲には自家用車がたくさん停まっています。
 三国峠登山口にて

 ここは朽木・葛川県立自然公園区域です。ここから清水繁さんの案内で自然観察をしながら、三国峠までトレッキングをします。登り口では、11回目の講座で講師を務めた青木繁さん(朽木いきものふれあいの里)が案内する一行に出会いました。清水滋さんが「トチノキはどうなりそうや」と声をかけると、「大丈夫です、止まります。半分くらいは残せそうですよ」と答えが返ってきました。
 軽いトレッキングにしては…

 軽いトレッキングと聞いていましたが、坂が急なので、木の枝やステッキをつきながらふうふう登ることになりました。それでも辺りがあまりにきれいなので、疲れも半減します。ブナの大木は迫力があるし、紅葉も格別だし、木肌の白さや模様も独特の美しさです。スタッフの方から、ブナの木には地衣類(菌類と藻類の共生体)がつきやすく、それがこのブナらしい模様を作っているのだと教えていただきました。
 紅葉するブナ林

■□■朽木の山の特徴を学ぶ
 途中で何度か立ち止まり、清水繁さんから森林や植物の話をお聞きしました。原生林とは、伐採や災害などによって破壊されたり、人手が加えられたりしたこともほとんどない天然の森林をさす言葉であり、ここのブナ林は原生林だと説明がありました。湖南の方では人の手が入らないと常緑のうっそうとした森になりますが、こちらでは気温が低いので落葉樹の森になるのだなということが感じられました。
 清水繁さんによる講義

 近畿地方の国有林率は5%と、他地域に比べて低いのだそうです。朽木では最近トチノキの大木の伐採が問題になっていますが、ほとんどが民有地なので手を打ちにくいという事情がわかりました。
 イワカガミ   ユズリハ

 他にも、イワカガミやユズリハ、コシアブラ、アセビ、イワウチワ、ウリハダカエデなどが観察でき、頂上近くではなぜユズリハがこんな高いところにたくさんあるのか、生きもののつながりから考えてみるなど、みちみち勉強をしながら三国峠に到着しました。滋賀・京都・福井の三国を望んで下山します。
 三国峠からの眺め

 しかし、ブナ原生林を延々歩いても、殻斗(カラの部分)は落ちていても肝心のブナの実は一つも見つからず、今年が不成り年・不作であることを実感しました。これでは生きものたちは困っているだろう、クマだけでなくネズミもリスもその他のものも、この冬は多くのものが命を落とすのではないかと、みんなで話しながら降りてきました。
 実のないブナ林

■□■雑木林と人工林の混ざる景色
 ここからまた車で移動、おにゅう峠をめざします。車窓から朽木の山を観察すると、色が緑と紅葉とにくっきりと分かれ、人工林と雑木林が混じっているのがよくわかりました。ずいぶんと奥深いところまでスギ・ヒノキの植林をしてしまったのだなあ、これでは手入れもできないだろうね、本来は奥山は動物たちの棲みかだったのに、今は生きものにも人にも役に立っていない森になってしまっているねと、乗り合わせた車の中で話し合いました。
 人工林と雑木林が混ざる山

■□■日本海を眺めながら昼食休憩
 おにゅう峠に着き、ヒカゲノカズラの生える小山によじ登って、日本海を望みながらお弁当を食べました。
 お昼休憩

周囲には雪虫(体に綿毛の生えたアブラムシの一種)がふわふわと舞っていたので、捕まえてルーペで観察し、かわいい姿を愛でました。
 雪虫

 山頂はシカの食害でシダ以外の下草はなく、皮をはがれたリョウブなどの何本もの木が枯れていて、11回目の講座で青木繁さんから教わったという湖西の獣害の深刻さが実感できたようです。
 ここではツルアジサイやミズキなどが観察できました。

■□■朽木の奥山で夢を聞く
 昼食後は車で朽木の奥山の入り口へと向かいます。どんどん森の奥へと入っていき、よく晴れて乾燥した日だったのですが、道が川に沈んでいるようになっている場所が数カ所あり、雑木林の山の保水力のすごさを感じました。
 ざぶざぶ渡ります

 着いたところは、清水滋さんが所有する森です。森へ続く道の脇には小川がさらさらと流れ、奥の正面には美しく紅葉した山が借景のように見えました。夏にはカジカガエルが鳴き誇るそうです。
 紅葉の奥山へ続く道

「ぼくはサラリーマン時代に、一人でここに来てキャンプしていたんです。夜は真っ暗で、生きものの気配がするんやね。仕事でどんな悩みがあっても、ここで一日過ごすとすっかり洗い流された」と清水さん。こんぜ里山楽校を立ち上げ、仲間が集まり里山保全の活動が軌道に乗ったので、次は奥山保全の活動をしたい、奥山に野生生物たちの安住の地を作りたいと言われました。奥の借景の山はある大企業の持ち山だそうで、そこにも協力を呼びかけて、ここで子どもたちのキャンプを開き、自然の中で過ごすすばらしさを知ってほしいのだと熱く夢を語られました。
  奥山保全の夢を聞きます

■□■伐採に揺れるトチの巨木
 そこから少し移動して、隣の人の所有地との境目に行きました。そこには、いま問題となっているトチノキの大木がありました。
 樹齢300年超のトチノキ

 朽木のトチノキが高級マンションの内装材として注目されるようになり、県外の木材ブローカーが個々の土地所有者から買い付けて、伐採が始まったのが今年の夏頃です。朽木の森はほとんどが民有地なので、所有者が承諾すれば誰も止めることはできません。現在では山を持っていても固定資産税がかかるばかりでお金にならないけれど、トチノキの材は1本5万円で売れるのだそうです。
 目の前のこの木は苔むし、300年は超えるだろうという堂々たる風格です。しかし、この木もすでに売られ、伐られる運命にあるとのこと。清水さん曰く、土地の人も売りたくて売っているのではない、「一年に1000円でももらえたら売らない」と言っていると。山にお金が回る仕組みを作らないとどうにもならないのだと言われました。
 森の主たる気品が感じられる巨木を前に、うーんと黙り込む受講生たち。
 トチノキ保全活動を聞きます

 生杉のブナ原生林の前ですれ違った青木繁さんらが中心となり、朽木のトチノキを守りたいと、多くの人たちが動き始めたそうです。研究者や林業家などが滋賀県に働きかけ、山主たちもトチノキの価値に気づいてきたとか。おかげで半分くらいは残せそうだと、先ほど青木さんが言われていたのはそういうことでした。

■□■奥山保全の大切さ
 トチノキがなくなればトチの実もなくなり、生きものの食べるものは減ります。ナラ枯れの影響で今後はますます食べものがなくなり、このままではお腹が空いたツキノワグマは里に下りてきて殺され、絶滅してしまう可能性が高いでしょう。奥山にまで針葉樹を植えてしまった人間の罪深さを考えさせられ、奥山保全の活動を始めたいという清水滋さんの想いがあらためてわかりました。
 充実した一日を終え、森でリフレッシュされた清々しさと、もやもやした気持ちを胸に、帰途につきました。

 終了後、受講生のお一人が、短歌を一首つくられました。

  椈(ぶな)の巨木 橡(とち)の古木に出会う森 どんぐり一つ無くて佇む


■□■取材者からひとこと■□■
 一日で朽木をぐるりとめぐる、駆け足だけれど内容の濃い講座でした。この季節、錦秋の自然に浸るだけでも十分に価値があったと思いますが、人が自然に与える影響を目の当たりにし、人と自然は今後どのように付き合っていくべきか、自分には何ができるのかを考えさせられました。指導者になるために勉強している受講生の皆さんの心に、何かが深く残ったのではないでしょうか。年間講座を修了された後のそれぞれの活躍に期待したいと思います。
(環境学習推進員 南村多津恵)


※講師の清水滋さんの取材記録はこちら
 → http://www.ecoloshiga.jp/I_report/index.php?act=dtl&type=lec&id=128